小型UV-LEDライトによるニスの硬化実験

2020年5月1日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗


 弦楽器のニスの硬化促進で紫外線ランプを活用する方法は以前から知られています。ところが、その具体的な方法(どのような波長の紫外線ランプを使うのか)や実際の効果については、意外と報告されていません。

 私も以前からブラックライト蛍光灯とか、殺菌灯とか、最近では大型のUV-LEDライトなどを使って実験したりもしていましたが、なかなかはっきりとした結果を出せないままでした。というのは、紫外線ランプというものはとても奥深く、商品に表示されている波長(例365nm)とかの表示が必ずしも正しいとは言えないからです。特に中国製などの安価な紫外線ライトの場合にには、疑いを持って扱わなければなりません。かといって、手持ちのスペクトルメーターで実測すれば済むかというと、紫外線領域の波長測定は精度的に難しく、これまた信頼性が低いです。

 専用の紫外線硬化樹脂(例えばネイル用とか)でさえ、照射する紫外線ランプとの相性では硬化しないらしいです。まして弦楽器に用いるニスの場合には多種多様で、さらにニスを塗る作業面積のバラツキなども含めて、とても複雑です。

 

実験方法

 実験は、私が修理の時によく使っているアルコールニスを、アクリル板の上に垂らして、30分、3時間後の硬化促進具合を確認しました。実験は、「1. 自然乾燥」、「2. 365nmのUVライトを20分照射」、「3. 375nmのUVライトを30分照射」の3種類において、それらの硬化促進に違いが出るかを確認しました。 UVライトの照射距離は、垂らしたニスから3cm位の近距離で照射しました。

 

使用した小型UV-LEDライト

2.で使用した365nmUVライト(実測値361nm)というのは、「H2T 日亜365nm UVライト 可視光カットレンズ仕様はH2Tによる改造ライト」と表記されている、信頼性の高いLEDライトです。価格も1万円位しました。使用電池も3Vx2と、明らかにパワーがある感じがします。

3. で使用した375nm(実測値397nm)というUVライトは、1,000円弱くらいの安いUVライトです。光量も1.5V単三電池1本だけで光らせいています。

 

実験結果

2.で使用した365nmと比べて、3.の375nmのライトの方が明らかに光量が少ない感じがするので、念のため10分多く、30分照射しました。

30分後の状態:
1. 自然乾燥のニスはほとんど硬化していません。私が今までの経験から感じていたニスの硬化促進具合、そのままです。
 
2. 365nmのUVライトを20分当てたニス表面は、既にカチカチに硬化していました。盛り上がったニスを押してみると、表面だけでなく内部もかなり硬化していることがわかります。

3. 375nmのUVライトは、パワーが小さいからなのか、それとも波長の問題なのか、何もしない自然乾燥よりは表面が若干、膜のように固くなり始めてはいますが、基本的には「効果無し」という感じでした。

 

なお、3時間後もほぼ同じ状態でしたので、結果は省略します。

 

 

結論

 弦楽器に使うニスにおいても、紫外線硬化促進の何らかの効果はあることは間違いなさそうです。あとは、ニスの種類と、紫外線ライト(ランプ)のより詳細なデータ(波長の実測値とか)を集めることが先決と言えそうです。

 安物のUV-LEDライトは表記より実測値が大きい(波長が長い)ことがほとんどです。一方、信頼性の高い実験用とか産業用の紫外線ランプはとても高価で、簡単に購入して実験出来るものでもありません。そういった意味で今回私が購入した365nmのUVライトはお勧めの商品と言えます。ニスのレタッチ作業などに活用できるかもしれません。

 

 

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