マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:喫煙者と楽器の汚れ

:楽器の演奏後の手入れについてはこれまでに何度か書いてきました。特に専用のクリーナーなどを使わなくても、日頃から洗濯し、清潔にしている布で拭き取ることによって、楽器はそう簡単に汚れるものではないのです。そして日頃からこのような手入れをしている楽器は、ニスが傷まずに、とても美しい美観を保つことができるのです。この美観が、長い間には間接的に、楽器のその他の部分に非常に大きな影響を与えるということはこれまでに何度も述べていることです。

喫煙者と楽器の汚れ
 手を洗わないで楽器を演奏すると、どうしてもニスは黒っぽく汚れてしまうものです(体質によっても汚れ方はかなり変わります)。しかし、これが喫煙者の場合、その汚れの度合いがぐっと高くなるのです。
 タバコのヤニは微粒子なので一見気にならないかもしれません。また、喫煙者も、演奏時にタバコを吸っているわけではないので、特に気にしたこともないでしょう。しかし、喫煙者によるニスの汚れ方に特徴がでることも確かなのです。もちろん、喫煙量や手洗いのタイミング、または体質などによって、ニスの汚れ具合には大きな差がでることは間違いありません。しかし、喫煙者は、非喫煙者よりも、楽器に対してこのような危険性を持ち合わせているのだという自覚が必要なのです。
 さて、先ほども述べましたように、タバコのヤニは一見、目には見えません。しかし、想像以上にベタ付くものなのです。これは無意識のうちに、自分の服に付いたり、または手に付いています。このままで楽器をいじると、楽器のニス表面にも僅かにヤニが付着してしまうのです。もっとも、これくらいでは楽器に悪影響はありません。しかし、ニス表面に一旦ベトベトの層ができると、それが次のヤニや汚れを呼び寄せてしまうのです。こうなってしまうと悪循環になり、楽器の汚れ具合は加速度的に進行してしまうのです。
 タバコのヤニで汚れたニスは黒っぽい汚れ方をし、ニスの美観を非常に損ねてしまうのです。そしてそのようなニスの状態を放っておくと、汚れはニス層の奥へと入り込み、もう決して取れなくなってしまいます。
対処方法
 もう既にニスが真っ黒く汚れてしまったものは、どうしようもありません。従って、こうなる前に手を打たなければならないのです。
 一番の効果的な方法は、楽器を触る前に手を洗うことです。なにもこの方法は喫煙者だけへのアドバイスではありませんが、喫煙者は非喫煙者以上に神経質にならなくてはいけません。もちろん冒頭で述べましたように、楽器を拭く布を清潔にしておくということも重要なことです。

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