マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:アジャスターについて教えてください。

:アジャスターを分類すると、下記の3タイプに分けることができます。そしてそれぞれに、微妙な特徴があります。

FIXタイプ
 これは一番一般的なモデルです。形はL字形をしていて比較的大型で、テールピースから飛び出ているのが特徴です。このアジャスターの特徴は、小さな力で強い張力の弦をチューニングできるということです。また、値段の安さや、トラブルの少なさも大きなメリットでしょう。このような理由から、このタイプのアジャスターは、弦の張力の強いチェロ、ヴィオラに用いられます。ヴァイオリンの場合には初心者用の安い楽器から、高級品までオールラウンドに使われます。
 欠点としては、重いこと、大きいので見た目が悪いこと、またはテールピースとの締め付けが悪いとガタガタしやすいことがあげられます。

HILLタイプ
 これは主にヴァイオリンで使われます。とてもコンパクトで、外見はネジの頭しか見えないほどです。このタイプのメリットは、何よりもその軽さ、小ささです。このために、ギリギリまでチューニングされた楽器に使用されることが多いのです。また良質楽器の美観を損ねないということもメリットとしてあげられるでしょう。
 欠点としては、取り扱いの難しさがあげられます。このタイプのアジャスターは、ただ単にテールピースに取り付けただけでは、その性能を発揮できないばかりか、アジャスターとしての役目をあまり果たさないこともあります。また、その構造から、弦が切れやすいというデメリットがあったり、その他にも値段が割高ということもあげられるでしょう。

分数用
 これは、小さなサイズのヴァイオリンに用いられます。この特徴は、テールピースに固定せずに、弦に装着して使用する点でしょう。原理的には、弦をネジによって「く」の字型に折り曲げることによって、弦の張力を変化させるのです。このタイプのメリットは、構造が簡単なために値段が安く、そして小さいので分数楽器に付けることができるということです。
 欠点は、アジャスターがテールピースと接触して雑音を出しやすいこと。そして何よりも、その構造から、弦を傷めてしまうということがあげられます。時々、このタイプのアジャスターを、フルサイズの楽器に使用している人を見かけますが、他のタイプのアジャスターに交換することをお勧めします。

左から、FIXタイプ、HILLタイプ、分数楽器用アジャスター

アジャスターのメンテナンス
ネジのくい込みに注意
 多くの方の楽器を見ると、アジャスターのネジが奧までねじ込まれています。こうするとネジを回すのに大きな力が必要になってしまうのです。「最近、アジャスターを回すのが堅くなった」と思われていた方は、一度チェックしてみてください。
 もう一つ大切なことがあります。それは、アジャスターのネジが奧までくい込んでいると、アジャスターの底辺部分が突き出てしまうのです。これは危険です。何かの拍子で駒が倒れてしまったときに、この部分が表板を突き破ってしまうからです。これは特にFIXタイプのアジャスターで深刻な話です。
 このように、もしもネジがくい込みすぎている場合には、いったんアジャスターのネジを戻してしまい、そしてペグによってチューニングし直せばよいのです。たったこれだけのことなのです。このついでに、ネジに油を注すと思ってらっしゃる方は注意が必要です。というのは、この部分に粘性の低い一般オイルを注すと、その他の部分に飛び散ったりしてトラブルにつながるからです。もしもオイルを注す場合には、粘度の高い「グリース油」をほんのわずか付けるか、それでなければ4Bなどの鉛筆の芯をほんの少し擦り付けるのがよいです。とにかく、一番よくないのは「やり過ぎ」ですから、不安のある方はやらないのが一番よいでしょう。

Q&Aに戻る