マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:楽器の中に埃がたまっていますが、悪影響はありますか?

:楽器の胴体の中には意外と埃がたまりやすいのです。これは特に、ケースの内装の質が悪い場合、または楽器を拭く布の質が悪いと、これらの繊維が楽器ケースの中にたまってしまいます。さらにこれらの埃は松ヤニの粉と混じり合い、ベタベタとした感じになってしまいます。酷い場合には、楽器の中でボール状になって転がっていることも珍しくはありません。

楽器内部の埃の悪影響
 楽器の内部に埃がボール状になっている場合など、中にはその「成長」を楽しみにしている人さえいます。しかしこれは決して誉められたものではありません。埃は湿気を吸収しやすいので、楽器内部の湿度が高くなってしまう可能性が増えるからです。この様な楽器では、表板が剥がれたり、何かしらのトラブルが増えると考えられます。
 また、ボール状になった埃は、微妙にコロコロと雑音を発します。そして更に、大きくなりすぎたボール状の埃は、f孔から簡単に取れなくなってしまうのです。こうなってしまうと、f孔から棒を挿して、無理矢理その埃を小さくむしり裂くしかありません。この様な作業中に、f孔の側面が傷ついてしまうこともあるのです。
内部の埃の取り方
 よく行われる方法は、フライパンなどで煎って乾燥させたお米を楽器の中に入れて振る方法です。こうすることで内部の埃を洗い落とし、更に内部にたまった湿度も吸収してしまうのです。この様にして綺麗になった胴体内部は、見ただけでも空気の循環がよくなったように思えるほどです。
 もちろん上記の方法を安易な気持ちで行うべきではありません。正しい技術無しでは、多くのトラブルが起きてしまい、せっかくの楽器のために行った作業が逆効果になってしまうからです。一番確実な方法は、専門家に任せることです。
 上記の方法を素人が行った場合に起こりうるトラブルを書いておきますので、もしも実行しようとする場合には、これらに注意してください。
・米を熱しすぎて、それをニスの上にこぼしてしまう。こうするとニスが傷んでしまいます。
・米を注入する漏斗のサイズが大きく、それでf孔を壊してしまう。
・米を入れて楽器を振るときに、楽器をぶつけてしまう。
・楽器を振るときに、魂柱が正しく立っていない場合には、魂柱が倒れてしまう。
・楽器を振った後、米を全て取りきれず、楽器の内部で米が雑音を発する。
・適さない米(粉が付いているなど)を使うと、楽器内部に米の粉が残り、最悪の場合には虫が付いてしまう。
 

 自分でできるメンテナンスは自分でするに越したことはありません。しかし大切なのはその見極めです。ある程度臆病なくらいが一番とよいのです。ほとんどの場合、楽器に対して無茶なことを行ってダメにしてしまうのは、自分の腕に覚えのある人だからです。ほんのわずかでも不安がある場合には、自分は手を出さず、専門家に任せるべきでしょう。 

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