マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:E線で金色の物がありますが、どのような効果があるのですか?

:ヴァイオリンのE線の中には金色の弦があります。多くは「***ゴールド」という呼ばれ方をしています。代表例としてはOliv弦のE線ですが、最近はそれ以外の多くの弦(インフェルド、オブリガート・・・)においても金色のE線が使われるようになってきました。今回はその「金色」について述べてみましょう。

この「金色」とは
 ゴールドタイプのE線といっても、無垢の金線でできているわけではありません。これは普通のスチールタイプのE線に金メッキをしているだけなのです。従って、長く使っているとメッキが薄くなったり、質の低いメッキの場合にはメッキ層がポロポロと剥がれてくる弦もあります(以前のメッキタイプに多く見られました。メッキ技術が現代よりも低かったのでしょうか)。
 もちろん、ここでいう「金メッキ」とは、安物の意味で使われているのではありません。もしも無垢の金を使ったE線ならば、引っ張り強度が弱すぎて、とてもヴァイオリンの弦には使えないからです。すなわち、何が何でも高価な金を使えばよいというわけでもないのです。
金メッキの効果
 さて本題ですが、この金メッキにどのような意味があるのか、私の想像の範囲ですが書いてみましょう。
*サビ防止
 昔のスチール弦は現代の物よりも質が低く、サビやすい物でした。弦を張ってそんなに経っていないのにサビがザラザラと浮いてきます。このような弦の場合、指で音階を押さえる時に下手をすると指を切ってしまうのです。また、そうでなくても音階を押さえていて気持ちの良いものではありません。
 また弦がサビるということは弦の線密度、剛性にムラが生じるという事です。従って弦の倍音成分が乱れて、音が悪くなってしまうのです。ゴールド(メッキ)タイプの弦の発想は、もともとこの理由から来たものと考えられます。
*高級感
 最近の弦セットに多い理由と考えられますが、E線を金色の弦にすることで商品に高級感、付加価値を持たせるという理由です。事実、確かにE線が金色をしていると何だか「高級な弦」に思えます。また、無意識に「良い音が出そう」と思ってしまうかもしれません。このような心理的なものも音の内と言えるのです。
*メッキによる物理特性の変化
 金メッキをする理由の最後に考えられる事柄として、金メッキをする事によって実際に生じる弦の物理特性の変化、すなわち音響的な影響が挙げられます。すなわち、金メッキを施す事によってスチール弦の線密度や剛性に変化が生じて、音にも金メッキ処理ならではの変化が現れるというものです。またスチール線と金メッキをした弦とでは、弓毛の摩擦係数が違うかもしれません。私はこのメッキ処理前後の音の変化について、正確な比較実験をした事がありませんので、その効果の程は判りません。あくまでも想像の範囲で言えば、「理論的にはメッキによる変化はあり得る」と「メッキの層は非常に薄いために、視覚的効果ほどの音響効果は無い」というものです。
まとめ
 私は、E線の音のキャラクターを決定づけるものはスチール自体の成分と、弦の太さがほとんどだと思います。従って、実際の音色的(音響的)な意味では「ゴールド」に大きな効果は無いと思うのです。しかし、サビ防止の効果がある事は確かです。この意味での「ゴールド」にはきちんと意味、効果があると思います。また視覚的な効果もかなりあると思います。


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