弓の性能と音量測定

2010年3月31日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗 

弓の性能の重要な要素
 「弓の性能」には様々な要素があります。「バランス」や「弾きやすさ」など、個々人の微妙な好みの範囲まで含めて「弓の性能」と言えます。さらに「価格」や「ブランド」さえも性能の一部と言えるかもしれません。しかしその中で、物理的に明確に説明できる「性能の要素」もあります。それが「弓竿の剛性」なのです。このレポートでは「弓竿の剛性」の要素が演奏においてどのような多大な影響を与えるのかは詳しく説明しませんが、簡単に説明すると楽器の音量に変化が出るのです。
音量と表現力
 よく多くの人が勘違いしているのは、"p"と"f"がそれぞれ単独で存在するものだと思っていることです。これは間違いです。
 例えばバロック楽器の演奏会を聴きに行ったとき、最初はその音量の小ささに驚くと思います。しかしものの5分後には、その大きくて深い表現力に引き込まれていることでしょう。また逆に、騒音の中で最初は耳を塞いでいたのに、ものの5分後には慣れて会話をしていたりします。このように人間の聴覚というのは「絶対音量や絶対音色」に対しては良く言えば「順応力」があり、悪く言えば「鈍感」なのです。すなわち、慣れてしまうのです。
 一方、逆の事も言えます。人間の聴覚は相対的(比較)な音量や音色に関してはもの凄く敏感です。ワンフレーズ、いやそれどころか曲の中の一部分にでも大きな"ff"音があると、それを覚えていて、それ以外の部分、例えば"pp"に引き込まれるほどの静けさを感じるのです。このように"f"と"p"は必ず対になって存在します。音楽的には「ダイナミクス」、音響的には「ダイナミックレンジ」と呼ばれる一見無機質的に思えるこの要素こそが、音楽の表現力の重要な要素を占めるのです。すなわち、"pp"を出すためにも"ff"が必要になるわけです。
弓竿の剛性と音量
 大きな音量を出すためには弦を大きく振動させる必要があります。そのためには弦と弓毛との間に大きな摩擦力が必要となります。そしてその摩擦力を生むための要素が弓の「スピード」と「圧力」なのです。そして弓の性能差は「圧力」という奏法の差となり、実際の音の違いとして表れます。簡単に言ってしまえば性能の高い弓では大きな音が出せるのです。そしてそれが「表現力」の違いとして表れます。
弓の性能と音量測定
 弓の性能によって楽器の音量が違ってくるのは、何も測定しなくても一目(聴)瞭然です。しかし今回は実際に騒音計にて計測してみました。
実験方法
・弓竿の剛性の高い「高性能弓 A」
・弓竿のあまり強くない「並性能弓 B」
・騒音計 RION社「普通騒音計NL-20」 計測モード「フラット」
・楽器から騒音計までの距離:1m
・ヴァイオリンのG線の開放弦をpp~ffまで弾いて、その最小・最大値を記録(アタック音は除く)

騒音計NL-20

計測結果
・弓A:約76~93dB
・弓B:約76~88dB
考察
 やはり、これまでの感じていたとおり測定数値にも差が出ました。測定器で数値化すると大した違いは無いように感じるかもしれませんが、実際に感じる差はとても大きなものです(多くの方はその違いに驚きます)。
 なお上記の数値はある1サンプルにしか過ぎません。ヴァイオリンのダイナミックレンジを表しているわけではありませんので注意してください。
 
 

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